簡潔に言って。
「私でもだめだったんですよ、シグリィ様」
シグリィは心底不思議に思った。
「なぜだ?」
「……『年頃の女の部屋に男を入れられるかい!?』と」
シグリィは呆気にとられた。
セレンがぎゃーぎゃー騒ぎ出した。
「カミルが手を出すわけないのに、この朴念仁が! 無用の心配なのにいいいいい!」
すぱん、と気持ちいい音を立てて、カミルの手がセレンの後頭部をはたいた。
「ふむ」
こめかみをかいて、シグリィはうなる。
「要するに、ラディア婦人はとても気難しいと」
「そういうこと……ですね」
「気難しいおばーちゃんなんて付き合いきれませんー!」
「失礼なことを言うなセレン。……となると」
腕を組み直し、「セレンのやったことの弁償はしなきゃならんわけだから」
「そうですね」
「なら、今度は私が行ってみるか。私は子供だ、入れてもらえるかもしれん」
カミルとセレンは当惑したような顔をした。それを見て、シグリィは苦笑する。
「なんだ? 私が家事をすると不満か」
「いえ……普段あまりなさらないじゃないですか」
「それはお前がさっさと先にやってしまうからだろう。たしかに不慣れだが……まあセレンよりはうまくやれるよう努力するさ」
「シグリィ様ひどい」
いじいじとセレンがいじける。シグリィは笑った。
そして彼は、一応カミルとセレンも連れて、ラディア婦人宅へと向かうことになったのである。
ラディア・パールの第一印象はと言えば――
小柄で枯れ木のような体と対照的に、とてもパワフルな女性。それにつきる。
「また来たのかい」
玄関にまで出てこられるほど足腰も丈夫らしい八十歳の女性は、ドアを開けてカミルとセレンをじろりと見た。
シグリィは頭を下げた。
「このたびはどうも、私の連れがご迷惑をおかけしたようで」
「……私の連れ?」
ようやく少年の存在を目に入れたラディアは、訝しげに鼻の上にしわを寄せた。
シグリィは顔を上げ、かすかに笑って、
「はい。私の連れです」
「あんたの方が格上だとでも言うのかい」
「別に格付けはしていませんが……。私の旅に、この二人は護衛としてついてきてくれていますので」
ふん、とラディアは鼻を鳴らした。
「で、なんだい。大元の責任者が何をしにきたんだってんだ」
「私でよろしければ、あなたのお世話をさせていただけないかと」
胸に手を当てて言う。心から真摯な気持ちで目を閉じた。
部下の不始末は上司の不始末、ではないが、セレンのやったことの尻拭いはいつものことだ。その気持ちでいたのだ
――ふと、奇妙な気配に気づき、シグリィは目を開けて顔を上げた。
ラディアが考え込むように、自分を見ていた。
「どうなさいました?」
シグリィは問いかけた。
ラディアは無言でいた。簡単に口を開きそうにない。そう思い、こちらもじっと待つ。背後ではセレンが落ちつかなげにそわそわしていた。彼女はじっとしていることが苦手だ。
やがて、ラディアは重い口を開いた。
「……旅をしている、と言ったね」
意外な言葉に、シグリィは片眉を軽く上げてから、
「はい。五年になります」
「五年……。このご時勢に物好きだね」
「よく言われます」
「………」
また考え込むように黙ってしまった。
背後ではセレンがとんとんと靴の爪先で地面を叩いて――ミルに足を踏まれたようだ。
ラディアの重い口が開いたのは、時間にしてちょうど一分後。
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