「今、幸せ?」 - 1
目次次へ

 ――時々旅をしていることが怖くなる――

「ああ、ここは……」
 と、最年少の少年が辺りを見渡してつぶやいているのが聞こえる。
「もうほとんどがアレの餌食になった後だったか」
「この様子だと、元から貧困の村だったのでは」
 カミルが少年とは違う方向を眺めながら、目を細めていた。
「そうだな。……肉がついていない貧相な者ばかりになっていたから、見切りをつけたんだろう」
 ああ。いやな言葉だ。
 私は靴先で地面を蹴っ飛ばす。
 乾き切った砂がわずかに飛んだ。硬い。石ばかり転がっている。
 緑の気配がない。
 水の気配もない。
 見渡す限りの乾燥地帯。岩を高く積み上げて造った建物は、雨風をしのぐための屋根がない。
 この地域に雨が降ることは非常に珍しいはずだ。じりじりと暑さが攻めてくるこの地では、風通しをよくする方が利口に決まっている。
 はあ、と息を吐いて、太陽を見上げた。ときに憎らしい天の王者……

 私は生まれてすぐに父とともに旅に出た。だから、今までかつて一度も、一所に長期間留まったことがない。
 そんな私にも大陸はまだまだ広く、行ったことのない場所は多い。何しろ人生の半分は子供時代で、覚えていないことだってあるのだから。
 それでも。
 知っている。
 世界には、こんな場所があることが。

 とても人の住む所ではないのに、なぜか人は住居を造る。その理由を、私は知らない。
 移動するような気力がないのかもしれない。そういう所に住む人々は、決まって少数民族だ。
 あるいは、置いていかれた人々かもしれない。なんらかの理由で。
 今この時代。人間の天敵、"人肉種"がはびこるこの時代。
 少人数で住むことの危険性を、彼らは知っているのかいないのか――

「セレン? どうしました」
 カミルが振り向いて、そう言った。
 苦しいの。
 そんな言葉は胸にしまって。
 長くなった前髪をかきあげた。
「昨日倒した《人型》が、改めて憎らしくなってくる」
 これも、あまりいい感情じゃないわね。自分で思って苦笑した。
 カミルはいたわるような顔をしていた。正直な人だ。
「大丈夫よ」
 微笑もうとしたそのときだった。

 じゃり、と砂利を踏む音がして、私はばっと振り向いた。
目次次へ