旅の合間のある日常―18 -
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「さっきから……どうしてその幻魔獣は動かないのですか?」
 部屋の中央。
 幻の獣は、何かに引きつったかのように動きをとめ、凶悪なうなり声をあげ続けながらも……動かない。
 オレは、何気なく空中に放るようにかざしていた右手、その指先を――くいと曲げた。
 刹那、幻獣の尾が切り飛ばされた。獣が宿を震わすほどにたけり立つ。
 マファがその様を凝視し――そして何かに気づいて瞠目どうもくした。
 部屋中に張り巡らされた、
 よくよく目をこらさなければ見ないほど極細の――糸。
 肉眼では見えないだろうが、それは紅い糸。くもの巣のように隙なく巡らされ。そしてすべての糸はオレの―指先に収束している。
 オレの、血濡れの指に。
 ウルグには見えないらしい。泣き濡れた顔が怯えたように、『何かに切り飛ばされた』獣の、なくなった尾を見つめる。
「言ったろ……オレは、剣士じゃねえってな」
弦舞げんぶ……?」
 マファが呆然とつぶやく。
 オレは片眉をあげてみせてから、シャラ、と静かに相棒を呼ぶ。
 それ以上何も言わずとも、銀髪の小娘はすべてを了承し、自分がはおっていたシーツをウルグとマファのふたりにかけた。ふたりの視界を遮るように。
 ――これから起こる出来事は、あまり人に見せたい光景ではない。
 オレはようやく、完全に獣に向き直った。
 最後の抵抗。獣の体から、紫の霧が噴き出すが――
 それらはすべて、張り巡らされた血の糸にからみとられて消え去った。
「シャラのせいですっかり調子狂っちまったが――」
 なぜわらわのせいになるのじゃ! とシャラが抗議してくるが、無視。

 あとは自分の指先をわずかに動かせば――
 張り巡らされた血糸は、意のままに。

 紫の煙が散る。
 消え行く幻。
 ――静かに、オレは囁いた。
「忘れるな。幻は……“生きている証の赤”には、決して勝てないってことをな」

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