旅の合間のある日常―19
旅の合間のある日常―19 -
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「宿がぼろぼろだなぁ……おい」
 幻魔獣が消え去り、ほとんど破壊された部屋を眺めてオレはため息をついた。
 元・隣室で自分の服を着なおしたシャラが、戻ってきて重々しく言う。
「そうだの。おぬしが剣で壁を破壊などするから」
「最初に壁をぶっ壊したのはお前だろうが……っ!」
 不毛だ。あまりにも不毛だ。
「私たちは……」
 すっかり抜け殻のようになっているウルグを抱いたまま、マファがこちらをうかがう。
 あの、感情のない人形のようだったウエイトレスが、まるで別人のようにたしかな表情をその顔に浮かべている。
「原因がどうあれ、そのガキが人間どもを死なせる手伝いをしたのは事実だからな」
 オレは剣の鞘を腰にはめながら、そっけなく言う。
とたんにマファが、すがるような目をした。
「お願いです! 私はどうなっても構いませんから――ウルグ様は、どうか!」
「あのなあ……」
 オレはマファとウルグの前にしゃがみこみ、顔をしかめてみせた。
「マファとか言ったか? お前が罰されてどうすんだよ。そもそもお前は一度死んでるだろーが」
「それはっ……そうですけれど、でも!」
「第一」
 母親に甘えるようにマファに抱きつくウルグの額をぴんと弾いて、「お前だけを消すわけにもいかねーだろ。お前がついさっき言ったんだろうが――こいつの傍にいるって」
「―――」
「それにの」
 シャラが、オレの隣に立ち眉をひそめた。
「そういう訴えは、ランに言うのは筋違いなのでな」
「……え……?」
 オレは肩をすくめ、それから自分の首の後ろに手を触れた。
 そこにあった傷は、とっくにふさがっている。脇腹に至ってはシャラの強引な手当て済み。血の出ている場所がない。
 仕方なく、マファに「おい、お前の針貸せ」と女が使っていた針を出させる。
 マファがおそるおそる差し出してきたそれの先端を、オレは指先に軽く刺した。ほんの小さな赤い玉が浮かぶていどに。
 そしてその赤い色を、ウルグの額にぴたりと引っ付けた。
「――それが印な。それをつけるところまでが、オレの仕事」
 言っとくが洗い流したところで気配は消えねえぞ、とつけたし、
「裁きのほうは、オレのアニキの仕事なんでね。すぐ上の。まあ頑張って訴えてみてくれ。あれはうちの兄弟で一番性格悪ぃけど」
 マファが引きつった。ウルグは泣きそうな顔で、
「あんたより性格悪いの……?」
「……そんな軽口叩けんなら平気そーだな」
 オレは険悪な笑いでウルグにそう言った。
 シャラは腕組みをし、うむうむとうなずいている。
「ランスフォードの次男はなかなか手強いからの。頑張るのだぞ、おぬしら」
 ――とりあえず、こっちを応援したくなるような兄貴を持ってしまった自分が悲しい。
「さて、と」
 立ち上がり、大きく伸びをした。こっちを見上げる二人の罪人に向かい、
「これ以上は何もしてやらねえぞ。まだもうひとつ、仕事残ってやがるしな」
 え? とウルグたちが揃って不思議そうな顔をした。
 これはついでにもらってく、と針をぶらぶらさせながら、二人に背を向ける。
「では、達者でな」
 などとどこか間違っている挨拶をするシャラをつれて、オレは一階へと降りた。

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