旅の合間のある日常 - 2
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 見るからに「近づきたくない場所」というものは、どこにでも存在するもんだ。
 まあ、ある種の人間なら喜んで利用するような施設なのは確かだが……。いや、別に偏見じゃない。偏見じゃねえっつの。ただな、
「……ここに入りたいのか? お前……」
「うむ」
 オレの隣にいた女が、重々しくうなずいた。
「このような建物は初めて見た。実に興味深い」
「……たぶん興味持たなかったほうが正解だぞ」
 オレはため息をついた。
 隣で、なぜじゃ? と不思議そうに連れの女が――いや、女の子・・・がオレを見上げる。
 ……年のころは――たぶん十歳くらいだろう。正確な年齢をオレは知らない。とりあえず分かっているのは、この子供はたいそう見栄えのする容姿をしてるってことだ。顔立ちが整っていることはまあ置くとしても、そもそも銀髪に紫眼なんてぇ色を持ってる人間は珍しい。
 そーなんだよ、こいつは目立つんだ。
 それでなくとも、こんなガキともう二十を過ぎた男が二人きりで旅をしてるなんてぇのは、周囲の好奇の目にさらされるっつーのによ。
 あ? オレは二十二だ。悪いか。
「さっきから何をブツブツ言っているのじゃ、おぬし」
 オレの服のすそをくいくい引っ張りながら、オレの頭痛のタネが不思議そうに訊いてきやがる。
 ほっとけ。独り言の癖がついたのは、お前と出会ってからなんだよ。
「とにかくなーシャラ。ここには入らねーほうがいろいろ身のためだ。もっとマシなとこ行くぞ」
「いやじゃ」
「………」
「わらわの言うことには、おぬしは逆らえぬ」
 言って、銀髪の子供は――シャラエリラは、えらそうに胸を張った。
 ちなみにこいつにはまだ胸がない。色気もくそもない――
 げしっ
「……おぬし今、わらわをブジョクしたであろう」
「……今は何も言ってねえぞ。独り言も」
「おぬしの考えていることなぞお見通しじゃ」
 ぷん、と口調のわりに子供っぽい仕種で、シャラはそっぽを向いた。
 ……思い切り蹴飛ばされたすねが痛くて、機嫌をとるどころじゃねえ。
「くそ……マジいてえ。このやろ……」
「そうであろう」
 突然シャラはこっちを向いて、キラリとその瞳を光らせた。
「痛いのだろう? では、ここに入って休もう」
「……。もう治った。じゃあ行くぞ」
「いやじゃ!!」
 ぎゅうとオレの服を握りしめて、今度はバタバタ暴れだす。
「いやじゃ……! わらわは今夜、ここに泊まる! ここがいい……!」
「阿呆! もう少し進みゃいくらでも他の宿があるっての! わざわざこんなトコにすんな――」
「ここがいい!!!」
 怒鳴れば三倍返しのキンキン声が返ってくる。
 思わず耳をふさいで、冗談じゃねえぞとオレは心の中で毒づいた。
 シャラをにらみつけたまま、視界の端でひそかに目の前の建物を確認する。
 ここら辺の他の建物と変わりなく、今にも崩れそうな乾いた土壁の――いや、たぶんそれなりの補強はしてあるんだろうが――建物。
 こんな、人間がいるんだかいないんだか一見分からないような土地でも、一応人は住んでいる。その証拠に建物のいくつかには看板がまだ残っていた。えらく古びた、ヘタすると文字が読めねえくらいなシロモノだったりするが。とにかく、ほそぼそと道具屋〜だの薬屋〜だのはあるんだ。
 なぜかってぇと、ここは荒んでいるわりに旅人なら通る可能性が多い土地にあるからだ。まあ、いろいろな理由で。
 ……とは言え大抵は、ここは避けて通るんだが。
 わざわざここを通ろうとするのは、無知なまま旅をしているバカか、知っていても甘く見ているバカか、旅の途中で息切れして立ち寄るしかなくなったバカか、……教えてやっているのに大喜びで飛び込むようなバカか……
 シャラがどれに当てはまるかって? 聞くまでもねえだろ。
 そんでもってシャラは――やっぱり無知なんだ。

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