旅の合間のある日常 - 3
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「そもそもおかしいのはお前じゃ、ラン」
 両手を腰に当てて偉そうに、シャラはオレをまっすぐ見上げてくる。
「ここは喫茶宿≠ニ書いてあるだけではないか。わらわは喫茶宿なるものは初めて見るが、要するに軽食の出る宿であろう?」
 ……間違っちゃいない。
 間違っちゃいない。確かにな、シャラ……
 だが……だ。
「……お前、字が読めんなら、その喫茶宿≠フ前にくっついてる文字も読め」
「ん?……どうはん……これがなんじゃ?」
「………」
「同伴。ただ二人連れ以上でということであろう。うむ、そう言えばそんな宿も初めて見た。ますます興味深いぞ、ラン!」
「………………」
「ええいまだ迷っているのか! この優柔不断者めが! 決めたら即行動じゃ!」
「! やめろ! シャラ――!」
 聞く耳持たず、シャラはとっととその建物に飛び込んでいった。こういうときのあの小娘の動きは、妙に素早い。異常に素早い。
 オレは脱力して、深く深くため息をついた。
 うつろな気分でその建物の看板を見上げる……
 他の店の看板よりずっと綺麗で、目を引く淡いピンク色の――看板に並ぶ文字。
『同伴喫茶宿』
 ……珍しい施設なのはたしかだ。ああ認めてやるよ。オレだって、ここにこんなもんがあるなんて知っていたら、根性でシャラが進む道にこの店が現れないようにしていたさ……
 ……薄い宿の扉の向こうから、シャラが高い子供声で怒鳴っているのが聞こえてくる。
 「なぜじゃ!」とか、「連れならおる!」とか。
 ――もう諦めるか……
 しぶしぶ、オレは扉を開けた。
 まっさきに振り向いた少女が、「遅いわ!」などと勝手なことを叫ぶのを無視して、まずシャラが口論していた相手を視線で探す。
 ――いた。まっすぐ前のカウンタ。
 意外だった。女だ。
 オレは少しだけ眉をしかめた。女も当惑顔のままオレを見て、
「こちらのお嬢様の保護者さまですか?」
「……あー……」
「申し訳ございませんが、当店はお子様は……」
「なぜじゃ! 子供を断る宿など聞いたことがなむぐっ」
「ああ。分かってるよおネーサン」
 オレは女に笑いかけてみせた。隣のうるさい口を力づくでふさぎながら、カウンタ嬢に続けて、
「あのさ、おネーサンもこの商売やってたら、分かるよな?」
「え……」
「オレたちもさ、まあ自分の信じたものは貫こうとしてるわけだ。そんでもって、ここはそういう二人を歓迎してくれる宿だろ?」
「………」
 心の底から屈辱を感じながらも、笑顔でオレは続けた。
「――オレたちが、兄妹とかに見える? なあシャラ? オレたちの関係ってなんだ?」
 む? と口を開放されたシャラはいったん不思議そうな顔をしてから――やがてにっこり微笑み、胸を張って断言した。
「無論! 婚約者・・・以外の何者でもあるまい」
「……とまあ、こういうワケだから」
 そこまで言えば、さすがあちらも良く分かって・・・・・・くださったようで。「分かりました」とにっこり微笑んだ。
「では、お部屋をひとつ、お取りしますね」
 当店は匿名可能制度を取っておりますので、などと言うカウンタ嬢の説明を右から左へ流しながら、オレは、はあと思い切り息を吐き出して、灰色の前髪を無造作にかきあげた。

 同伴宿……
 ――知っている者は知っている。男と女が二人で泊まるために・・・・・・・・・ある・・宿……
 オレは心の中で訂正した。こんな土地に突っ込んでくる旅人はもう一種いる。
 ……わがままな連れの、どうしようもない行動を結局止められず、しかも付き合うハメになる、オレみたいなバカだ……
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