旅の合間のある日常 - 4
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 宿屋が店内に設けているのは、普通は酒場だ。
 だが、中には“喫茶店”……酒場とは違い、アルコールよりも軽食を主として出す食堂を作るところもある。
 何にせよ喫茶店ってのは、比較的最近、西大陸から発生してきたんだ。よって、東方出身のオレは詳しくない。
「ん……むぐ……つまりっ。はむ。んぐんぐお前の故郷ではもぐ酒場のほうが……主流なのか?」
「……食うかしゃべるかどっちかにしろ」
「む……そうは思っておるのだが……」
 ごくん、と口の中のものを飲み込んで、シャラは一息ついた。
「――なかなかうまくての」
「………」
 特に否定もせず、オレもパンケーキのかけらを口に放り込んだ。
 建物の一階。ここに食堂(ここでは喫茶店と呼ばれているんだが)があるのは、大抵の宿屋と同じだった。今、シャラとオレは二人で小さな食堂の端のテーブルを陣取っている。他に客は一人もいない。シャラはそれをしきりに不思議がり、また「もっと真ん中のテーブルがよい!」とわめいたが、オレは無理やり端に連れてきた。
 いっくら他に人目がないからっつって……あんまり堂々としちゃいられねえだろうが、こんな場所じゃ。
 ――ここに来る前の、カウンタ嬢のいやに微笑ましげな視線を思い出し、オレは憂鬱になる。
 だが、それと食事は別の話だ。
 こんなさびれた土地にある喫茶店――つーか宿屋だから、どうせ食い物もろくなもんがねえだろうと、単純に予想していたんだが、ハズレだった。
「おいねーさん」
 オレはたまたま近くを通りかかった、この食堂でたったひとりのウエイトレスをつかまえた。
 振り向いた娘は、カウンタ嬢とは違い、仏頂面で「何か」と抑揚なく応えてくる。
 ……へたな食い物屋でこんな女が運び係やってたんじゃ、絶対客入らねえだろうな……
「ここの食いモンはどこから仕入れてンだ?」
 尋ねると、ウエイトレスは表情をぴくりとも動かさずに、「西から」と簡潔すぎる返答をよこしてきた。
 その無愛想っぷりに、何だか疲れを感じて、「あ、そう」とオレは手を振って話を打ち切った。
 何も言わずに娘はキッチンに消えていく。
「なんじゃ、あの女子おなごは」
 口の端にクリームをつけたまま、憤然とシャラがウエイトレスの消えたキッチンの戸口をにらみつける。
「無愛想にもほどがあるではないか。あれでは接客業は務まらぬ」
「……まあ、ここの従業員に愛想なんぞいらねぇんだろーよ」
「……? なぜじゃ」
「あー……まあ、な……」
 うまいごまかし方が見つからない。
 オレがしかめ面をしつつ、「なぜじゃ」とうるさいシャラを無視していると、やがてキッチンからうわさのウエイトレスが再び姿を現した。
 手には銀のトレイ。
 その上に乗った二つのグラス。
 ――それを持ってまっすぐこちらへやってくると、「カクテルです」そっけなく告げて、ひとつひとつオレたちの前にグラスを置く。
 オレの前にはやや白くにごった色の……シャラの前には、淡いピンク色の。
 一呼吸置いてから、女はシャラを見やり、
「そちらのお嬢様には、ノンアルコールとさせていただきました」
「失敬な。わらわはれっきとした大人むぐっ」
「心遣いありがとよ」
 慣れた手でシャラの口をふさぎつつ、ウエイトレスに礼を述べると、初めて彼女の眉がぴくりと動いた。眉間に寄って……よーするに、顔をしかめたのだ。イヤそうに。あるいはヘンなものを見るかのように。
 その表情の意味は何となく分かる気がしたが、オレは無視を通した。
 その表情とは裏腹に、ウエイトレスはなぜかオレたちの傍から離れようとしない。
 早くどっか行け、とイライラして念じているうちに、シャラは口をふさぐオレの手を渾身の力で引きはがして、
「苦しいではないか、ラン!」
 すかさず怒鳴ってきた。
「あーあー悪かったっつの」
「どうしておぬしはそう、すぐにわらわの邪魔をするのじゃ!? カクテルはわらわの好物だと知っておるだろうが!」
「そんなことは知らない」
「嘘をつくな!」
「いいから知らないってことにさせろ!」
 すでにヤケで、オレは怒鳴り返す。
 ――知らないわけがない。この小娘が実は大酒飲みだなどということは。
 だが、その本性をまともに発揮させた日にゃ、表向き“保護者”にしか見えないオレが大迷惑をこうむることは想像がつくだろう? ああ、そりゃもう数え切れないくらいイヤな目に遭ったさ。つーか思い出したくない。
 シャラはまだ何かを怒鳴り散らしているようだったが、もうどうでもいい。聞くな。聞いてはいけない。オレの防衛本能がそう訴えている。
 何が悲しくて同伴宿ラブホテル内の喫茶店でこんな小娘と口ゲンカをしてなきゃならんのだ……
(オレの人生、どこで間違っちまったんだ)
 いや、考えるまでもない。シャラと出会ったその瞬間からだ。
 ここ最近しみじみと思うようになったことを改めて心の中でかみしめていると、ふと、テーブルの横に無言で立っていたウエイトレスがおもむろに口を開いた。

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