「……失礼ながら、お願いがございます」
「なんじゃ」
このウエイトレスが気に入らないシャラは、敵意むき出しの声音で返答する。
だが、鉄面皮のウエイトレスはそれを気にする様子もなく、「実は」と言い出した。
「この宿の従業員に子供がおります。もしお嬢様にお時間がございましたら、少し話し相手をしてやってはくれませんか」
「――子供の話し相手じゃと?」
シャラが毒気を抜かれたような声を上げた。
「はい。この土地には人が多くありません。ましてや子供は……。男の子ですが、同じ年代のお嬢様のような方と話ができるならば、とても喜ぶと思いますので」
よろしければ慰めていどに――と、初めて無表情なウエイトレスは口元をゆるめた。
あん? とオレは内心眉をひそめる。
「ほう」
シャラは興味を持ったようだった。さきほどまでの敵意がきれいになくなっている。
……こいつは元来単純思考なんだ。
好奇心の塊なシャラの、紫の瞳がキラキラ輝くのを横目で見てから、オレは逆に不機嫌な顔を作ってみせた。
「……おい、ねーさん」
「何でございましょう」
「ここは何の店だ? ちょうどよく子供がいるから遊び相手にするだと? オレらの邪魔をするわけか」
――ものすごおおおおおおく不本意なセリフを、とげとげしい口調で。
シャラが咎めるような顔でこちらを向き、
「何を言っておるのじゃ、ラン。ここはただの宿ではないか――それにこんなところに子供がいるのなら、わらわも色々話を聞きたい」
……思ったとおりのことを言ってくれる。
「はン。……話し相手ねえ」
オレは腕組みをした。椅子の背もたれに体重をかけ、いかにも不機嫌そうに見えるよう、椅子の足を傾けて。
「なら、条件つきだ。その会話の場にオレもまぜろ。いいな?」
「む」
シャラは形のいい唇をひんまげた。
恨めしげにオレを見上げ、
「……おぬしがいたのでは、好きなことが好きなだけ話せないではないか」
「知るか。お前を他の人間と二人きりにさせるわけにゃいかねえんだよ」
瞬間、シャラの顔が嬉しそうにほころんだ。美少女に華が咲くような、そんな笑みだ。
そうしてくすくすと楽しそうに笑い、
「なんじゃ……! おぬし、やきもちをやいておるのか!」
……痴話ゲンカに見えることを狙っていたとは言え、急激に頭痛が襲ってきた。
オレは“他の人間と二人きりに”と言っただけだ。だがシャラの脳内では、勝手に“他の男と二人きりに”に変換されている。
シャラは上機嫌で続けた。
「案ずるな、ラン。わらわの婚約者はおぬしひとりきりじゃ。決して誓いを破りはしな」
「ンなことはどーでもいいから!」
大声で遮ってから、そのまま鬼のような形相で――と自分でも思う――ウエイトレスに向き直り、
「いいか、何がなんでもこいつとそいつを二人きりにはさせねえ。そんなことをしてみろ、この宿をぶち壊すぞ」
と凄んでやった。……八つ当たり半分。
ウエイトレスは無表情でオレを見返していた。
……心の中ではきっと、「なにこの嫉妬深いロリコン」とでも思っているに違いなかったが……。
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