『あん? アマドナ鉱に行かなくなったのはどうしてかって? あんたらそんなことも知らねえのか。どこの田舎モンだよ……あー分ぁった分ぁった怒るなよ、変わった嬢ちゃんだな……そっちのにーさんはアニキか?……は? 婚約者?』
『……い、いや、今の沈黙に意味はないぞ。おう。人もいろいろだからなっ。で、ええと何の話だったっけか? あんたらがどんな田舎モンだっていう話―じゃないな分かったからにらむな。アマドナの鉱山な。だから、つまりアレだ。要するにおれたちゃ命が惜しくなったってことだ――』
「――つまり、ここら辺に“幻魔”が出るようになったっていうウワサをだ、聞いてきたんだよオレたちは」
と、オレはそう説明を結んだ。
話していた相手――この宿のカウンタ嬢は、相変わらず愛想のいい顔を少しばかり曇らせて、
「……やっぱり広まってしまっていたのですね。どうりでいつまでも、お客様がいらっしゃらないと思いました……」
「それ以前にここは商売がえをしたほうがいいとオレは思う。つーか土地条件がだな、」
「はい?」
「――なんでもない。で? その反応からするに、幻魔が出るってのは本当なんだな」
念を押す。
カウンタ嬢は困ったように、口元に手を当てた。
「ええ……たしかに、ほんの二ヶ月ほど前までは」
「……あ?」
「二ヶ月前ほど前までなら、幻魔にたくさんの人が……。鉱夫の皆さんも、旅人の皆さんも」
そこまで言って、辛そうに唇を噛む。
「――」
オレはカウンタに腕をかけて、ため息をついた。
「あの鉱夫の話は本当だったのじゃな」
隣でシャラが、オレを見上げる。
「嘘つく必要もねぇだろ。……で、ねーさん。二ヶ月前に何かあったのか」
カウンタ嬢は不思議そうな顔をした。
「なぜ、そんなことをお聞きに?」
「そのためにここに来たからさ。……あいにくオレたちは、別にアマドナの宝石が目当てでここへ来たわけじゃなくてな」
「え……」
「“幻魔狩り”を知っておるか、そなたは?」
片手を腰にあて、ふふんと偉そうな態度でシャラがカウンタ嬢に視線をやる。
「わらわたちは最初から、幻魔退治のためにここに来たのじゃ。宝石などという陳腐なもののためではない」
ちんぷ、と驚いたようなカウンタ嬢の声。……そりゃそうだろう。
実際、この町――と呼んでいいのか?――のさらに南にいったところにある、アマドナ鉱山から取れる石の希少価値は半端じゃない。今まで何人もの貴族が鉱夫を送り込み、何人もの欲にかられた人間がアマドナを目指したもんだ。
だからこそ、こんな乾いた土地に人里があり、
だからこそこの町では……犯罪が多発した。
数少ない、高価すぎる宝石をめぐって。
そんなアマドナの石を、いくら光りモノに興味がないっつっても、“陳腐”なんつー一言で終わらせられる人間は、世界広しといえども……この小娘だけだろう。たぶん。
不遜すぎる少女の言動にも、愛想のいいカウンタ嬢はころころと笑っただけだった。
「それは少し残念です。わたし、てっきりお嬢様にプレゼントなさるために自ら鉱山にお出向きになったのかと」
「……オレが?」
「あら、何でそんなお顔を? お二方ともラブラブv ではありませんか」
「どこをどう見たらだ!?」
「ふむ。そなたはなかなか目が良いな♪」
どさくさにまぎれてオレの腕に抱きつきながら、シャラが上機嫌に告げる。
重い! とその小さな体を振り放すと、それに怒るでもなくシャラは真顔でオレを見て、
「ラン。もしおぬしがわらわのためにあの鉱山に入るというのなら、わらわはその石を一生肌身離さず持つことにするぞ」
「誰が行くか!」
「なんじゃ甲斐性のない」
「そうですよ。ここまでいらしたんですから、鉱山まで行かれたらどうですか? 幻魔が出るいうウワサが消えない今なら採り放題です」
「……ねーサンあんたさ、いったいどんなシュミしてんだ?」
「わたしは、幸せな方々が増えるのを見るのが好きなだけですから」
にっこりと微笑んで。
――いかん。女性不信になるかもしれん……
このまま女どものペースに巻き込まれたらオレの一生は終わりだ。何となくそんな気がして、オレは必死の思いで話題を修正した。
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