旅の合間のある日常 - 7
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「ご心配なく。二ヶ月前に退治されましたから」
 あっさりと、そんな答が返ってきた。
「誰にじゃ?」
 不審そうな顔でシャラが問う。にこにこと微笑みながら、カウンタ嬢は言った。
「ランスフォード家の方が」
「……ああ?」
「ご存知ありませんか? 大陸でも随一の幻魔狩り一族……ランスフォード家の方が、二ヶ月前にここに立ち寄っていかれたのですよ」
「――」
 シャラがオレを見上げる気配がする。
 オレは……こめかみを押さえた。
 声がうなり声のようになるのを自覚しながら、ゆっくりと問う―確認の問いを。
「ちょっと待て。……あのな、そいつはランスフォードの……何番目・・・だ?」
「三男様ですわ。お名前はヴェルハーヴ様。ヴェルハーヴ・ランスフォード様です」
 ほほう、とシャラが面白そうに紫眼を輝かせた。
「三男か! それは――」
「ランスフォードでも最強の男なんだってさ!」
 唐突に、割り込んできた声。
 振り向くと無愛想なウエイトレスに連れられて――十歳ほどの少年が、こちらに向かって走ってくるのが見えた。
「おれ、そいつに会ったんだよ! かっこよかったぜ……! こう、剣を軽々と振り回してー」
「走るのはやめなさい、ウルグ!」
 カウンタ嬢がたしなめるのも聞かず、ウルグと呼ばれた少年はバタバタとオレたちのところまでやってきた。そしてまっさきにオレが腰につけた剣に目をつけたらしい。
「あ、このにーちゃんも剣士か! ねえねえちょっと手ぇ見せてよ手! 剣士の手ってかっこいいんだ、ヴェルハーヴさまも当然!」
「………」
「あれ、にーちゃんの手袋指の部分がないね。うーん、ヴェルハーヴさまに比べたらまだまだ修業が足りない感じの手!」
 余計なお世話だ。
「こいつが、シャラが話し相手になる予定のガキなんだな」
 勝手に人の手で遊ぼうとするガキを振り払って、オレは遅れてたどりついたウエイトレスを見る。
 無表情な女は、こくりとうなずいた。
「ウルグは、両親を、その……幻魔に」
 とためらいがちに答えたのは、カウンタ嬢のほうだ。
「ふん――」
 オレはカウンタにもたれかかってウルグを見下ろす。
 ウルグはむっとした顔をして、
「何だよ見下すなよな、このロリコン!!」
 ぷちっとオレの中で何かが切れたような気がしたが、このていどで騒いでいてはシャラとともに旅はできない。オレはひらひらと手を振った。
「シャラ。行ってこい」
「ラン?」
「オレも同席っつー、アレはなしにしてやる。気が変わった」
「え、いいのこの綺麗な子おれが独り占めしても? やーい、奪ってやるかんな、おじさん」
「蹴り殺すぞくそガキ」
「けけけっ。行こう、シャラ!」
「む―こ、こら、おぬしっ」
 すでに気安くシャラを呼び捨てて、ウルグは来たとき以上の素早さと強引さで、シャラさえ有無を言わさず引っ張って二階へ駆け上っていく。
 頭をかきながらそれを見送ったオレに、
「よいのですか……?」
 とカウンタ嬢が心配そうな顔をした。
「ガキ同士の遊びだろ。――オレは先に部屋行ってら。疲れた。眠い」
「――では、お部屋にご案内いたします」
 ウエイトレスは案内役も務めるらしい。
おう、とオレはもたれていたカウンタから体を離し、「ああ、そうそう」とカウンタ嬢に背中を向けたまま口を開いた。
「ヴェルハーヴだっけ、ここに来たっつーの」
「え?」
「オレの知ってるランスフォードの三男坊はな。剣士じゃなかった・・・・・・・・
「―――」
「じゃーな」
 ウエイトレスが歩き出す。
 背後に、カウンタ嬢が絶句する気配を感じながら、オレは黙って後に続いた。

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