客の数は増えもせず、減りもしていない。宿に泊まっている人間そのものがそんなに多くなかったのかもしれない。 と、そこへ、 「あ、はやいねーレッカ、リン!」 バーラ人間バージョンがとことこと食堂に入ってきた。 おう、とリンと二人で手を振って返す。 「今日は、早速船に乗るからね」 とテーブルに来るなりバーラは言った。「まあまだ時間あるから。朝はゆっくり食べて大丈夫だよ」 ひとつの椅子の背もたれに手をかけつつ、立ったまま子供たちの顔を見る。 「――でも、意外に起きるの早かったね二人とも。疲れてもっと寝てるかと思った」 「お前、どこ行ってたんだ?」 「ん?ルカのお手伝い」 「手伝い?」 丁度そこへ、当のメンバー最年長、ルカが食堂へ入ってきた。 彼もすぐにこちらに気づき、軽く手を振ってきた。しかしこちらへ来ない。 「……何やってるんだ?あいつ」 ルカはまっすぐに食堂の端の調理場にいる料理人のところへ歩いていった。 はだしで。 おまけにズボンの裾を、弁慶の泣きどころ半ばまでまくり上げて。 ……ルカはそのかっこうのまま、料理人と何かを話している。 「何やってたの?二人とも」 リンがバーラに訊いた。 「うん。洗濯」 「洗濯〜?」 「長期宿泊客の服洗っとかないといけないんだから。当然の仕事だよ?」 そういうものなのか。 (だからあんなかっこしてんだな) とりあえず納得して、「じゃあ今何してるんだ?」と続けて訊く。 「これから料理人さんの言う仕入れものを市場に取りに行くみたい」 「朝の仕入れ?」 「まあそんな感じ」 「……あいつ朝飯は?」 「食べてないと思うよ」 それじゃ、おいらも手伝ってくるから――と行ってしまおうとするバーラの服をつかんで止める。 「……なに?」 「だからさ、お前らなんで朝からそんなことやってんだ?」 呆れた気持ちで言うと、対するバーラも心底呆れた表情で返してきた。 「昨日聞いてなかったの?ルカ、宿泊代を店の手伝いでまかなってるんだよ」 「あ……」 リンが呟く。 レッカはバーラの服を放した。バーラは続けた。 「そんでおいらは、あまり眠くないから――なにしろ何年もずっと動かないでいたし、あの状態では寝るしかやることなかったしね。手伝おうと思ったわけ、だけど」 「……だけど?」 「よく考えるとさあ」 バーラは頭に手をやって、そのお子様の顔をへらっと崩した。「次の目的地行くために乗る、船の乗船代がないんだよね。だから、おいらたちの宿泊代もやっぱり手伝いで許してもらうことにしたんだ」 「それって……!」 「あ、二人はいいからね。だって疲れてるだろうし。おいらも体なまってるから、ちょっと張り切ってみるよ――うんすごく元気」 レッカはリンと揃って硬直した。 目の前でバーラは、“悪意なんかこれっぽっちもないよ♪”と言いたげなのほほんとした笑顔を浮かべている。 だが、この外見年齢詐欺師精霊は、そのお子様な顔の奥にいったい何を秘めているのか知れないのだ…… 「………………」 どれだけ無言でねばっても、バーラは笑みを浮かべ続ける。 長い沈黙の後、 レッカは敗北感を胸に秘めながら、しぼりだすように言った。 「……分かった……おれもやるから……」 「あ、うん私も……」 「え、ほんと?そこまで言うなら仕方ないなあ。二人ともありがとー」 天使の笑顔。 ……脱力。 「さっそくだけどレッカ、一緒に仕入れ物取りに行こう。量があるんだから――」 「あ、ええと、私は?」 「リンは宿屋のお手伝いしてて。たぶんベッドメイクとかまだあるから」 言ってから、バーラは最後の一人を思い出したらしい。 「――ああそっか。セイラにも手伝ってもらわなきゃ――」 「まだ寝てるんだけど……」 「じゃ、起こせばいいじゃん」 しごく当然のことを言ったバーラ。リンは助けを求めるかのようにレッカに視線を送ってくる。 レッカは深くため息をついた。 「分かったよ……。おれも一緒に起こしにいくから……」 |