其れは幼き心の傍らに―3−8
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『……バカな』
 覆面の戦士は呟く。
『爆発がおさえられた……? いったい何故』
「火精の力は」
 傍らから声がした。「同じ火精なら抑えられる。知らないはずがないだろ?」
 はっとマスカ・アネルはその場から飛びのく。
 全身に緊張がみなぎった。強烈な圧力が、通りそのものを支配していく。
「どうりでいつまで経っても報告がこないわけだ……」
 いつの間にか現れた青年が、ひとり呟いていた。冷めた視線がやがてこちらを向いて。
「貴様ら精霊を支配したな?」
『―――』
 汗が流れ落ちるのを、マスカ・アネルは自覚した。
 この青年を怒らせてはいけない――
「もう遅い」
 しゃん
 優雅なまでに滑らかな金属音がして、気がつけばのどもとに剣先がつきつけられていた。
 その切っ先にこめられた鋭い意識が、すべてを凍りつかせて。
 ……青年が微苦笑する。
「“仮面の人マスカ・アネル”がそんなに分かりやすい態度でいちゃーいけないな。もっとクールにいけよ……なあ、協会の飼い犬よ」
『………』
 剣先はまさに首に触れるか触れないか、絶妙な位置で止まっていた。ただそれだけで、青年の腕を知るのに充分な。
 仲間の気配が消えていることに、マスカ・アネルは気づいた。
「本当はこの場でひねりつぶしてやりたいけどな……」
 青年の甘い色の瞳が脇に移る。
 地面に倒れ気絶した、二人の人間。――自分らの目的だった少年と、緑の髪の精霊術士を見やって。
「……そうもいかない。帰ってお偉いさんに伝えるんだな。今後こいつらに手を出したら、そっちもただで済むと思うなよ」
『―――』
 剣先がゆっくりと、首から離れた。威圧感はそのままに。
 ――この大陸で絶大な力を誇る精霊保護協会に対して、これほどあからさまに敵意を見せる存在が、いったいどれほどいる?
『残念ですよ……』
 一歩一歩退きながら、覆面の戦士は少し笑った。
『あなたが我々の味方でないことが』
 唇が自然とその言葉を紡ぐ。
 “精霊に愛されし子よ”――
 刹那、顔を覆っていた覆面の一部が裂かれた。
 露出した頬から、つうと一筋の血が流れた。
「失せろ。素顔を切り刻まれたいか?」
 精霊と語る声が、今はどんな鋭利な刃よりも鋭く。
 マスカ・アネルは従った。
 覆面にすべてを隠し、そして影のように、彼はその場を退いた。

 ――覆面の戦士の気配がなくなったその場で。
「馬鹿どもが……」
 青年は苦々しくはき捨てた。
 そして、
「――さあーって! このしょーがない二人を運ぶとするかあ」
 急に朗らかな声で。
 ああめんどくさいめんどくさい、などとぼやきながら楽しそうな青年の、短い亜麻色の髪が軽く弾む。
 雨は、すっかりやんでいた。

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