| 【うたごえ】 〜2〜
「ねえねえ、私の歌どうだった?」 きらきらと瞳を輝かせる娘に、話をそらされたことを咎めることもできず、苦笑しながらもカミルはうなずく。 「言葉になりませんよ。あんなに綺麗な歌声は聴いたことがない」 「ほんと?」 「ええ。聴くことができて幸運でした」 少女は手を叩いて喜んだ。心底嬉しそうな笑顔だ。 そう言えば最初から、この子はずっと笑っている―― 「あれは、シレジアの歌じゃないんですか?」 カミルは訊いた。うん、と少女はうなずいた。 「あのね、私のお父さんもお母さんもシレジアの人なの。教えてくれたんだ」 「シレジアの……」 どうりでこの娘も、容姿が美しいはずだ。シレジア人は美の女神アプロスの守護のために、見目麗しい人間が生まれやすいと言われている。 現に、カミルの身近にいるシレジアの血筋の女も…… 「おにーさん」 ふと気づくと、少女は上目遣いでじっとこちらを見上げている。真顔だったその表情が、やがてにんまりと意地の悪い笑みになった。 「……誰のこと考えてるの?」 「………。何も考えていませんよ」 「嘘だーあ。だって最初私を見たときも、目をそらしたもんね。何かあるでしょ? あるでしょ?」 カミルは苦々しく嘆息する。――どうしてこうも勘がいいのだ、この子は。 |
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「ねえねえ、誰? 教えて教えて」 しつこく迫ってくる少女の、星の光をたたえた瞳があまりにまぶしくて、隠し事はできなかった。 「……旅の連れです。彼女もシレジアの血筋なんですよ。あなたと同じ――」 ――同じ長い黒髪に、白い肌に、海の色の……瞳。 わお! と無邪気な子供は歓声をあげる。 「さてはさてはっ! おにーさんってばその人とらぶらぶ?」 ――勘弁してくれ。 「そんなわけがないでしょう……」 片手を額に当ててため息をつく。らぶらぶ? 冗談じゃない。あの女は――何も分かっちゃいない。 とたんに、少女はしゅんと眉をさげた。 「……じゃあ、片思いさん? 寂しいね」 「………」 カミルは微苦笑する。 普通なら癇に障ったに違いないセリフなのに……なぜかこの娘の鈴のような声は、不愉快ではなかった。 「シレジアの人なんだ」 ってことは、歌もきっと上手だね――と、小さな花のような少女は嬉しそうに顔をほころばせる。 カミルは少しつまった。視線がわずかに泳いだことが、すぐにバレてしまったようだ。 「え? 違うの?」 「……シレジアの血筋というだけで、シレジアで育ってはいないですから」 申し訳ない気分で告げる。 かの旅の仲間である黒髪の女は、たしかに歌うことは好きらしい。ただし……まあ、詳しくは言うまい。 「音感は耳からですから……歌の多い環境にいなかったから、慣れていないだけですよ」 何となく言い訳じみたことを言ってしまう。 すると少女は、またもやにんまりと笑った。 |
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「うーわー。おにーさん、その人のこと本当に好きなんだね」 「……は?」 「その人のことかばってる!」 「―――」 そう……なるのか? 自分の言動を振り返り、カミルは真剣に眉根を寄せた。自分は今、単に少女の期待を裏切るような答えを言うのが心苦しくて言い訳しただけで、かの女をかばっていたわけでは…… (いや……) 「悪く言いたくなかったんだね」 まるで代弁するかのように、少女があっさりとそう言った。 カミルは心の底から降参し、苦笑しながら両手を軽くあげた。 「参りました」 「よろしい」 満足そうに、少し偉そうに胸を張る動作をして、少女は大仰にうなずいた。 くるり、と踊るようにその場で身を翻す。軽い鼻歌。そのあたりをとん、とんとリズムを取るようにスキップし、「歌はね――」と歌姫はまさに歌うように語り出す。 「上手も下手もないよね。そりゃあ、職業として歌ってる人だと別かもしれないけど、それだってきっと歌いたい理由があるの。下手だからって、歌っちゃいけないことにはならないのが、歌の魅力のひとつ」 カミルは黙って、踊る歌姫を見つめる。 「『あいつの歌は下手だ』なんて悪口言う人、私、嫌い。歌うことが好きな人にしか分からない、とっておきの気分っていうのがあるんだよ」 足をとめ、青年を振り返りいたずらっぽく舌を出す。 「――悪口言う人には一生分からない贅沢な気分だよ。へへ、ざまあみろっ」 カミルは少し笑った。 |