| 【小鳥】 〜1〜
「青い鳥がね……私を迎えに来るの」 白いベッドの上で、 「私をね、幸せにするために来るの」 少女は口癖のように、そう言った。 ********** 病院。そこはシグリィたちにとって、新しい街や村に着いたら真っ先に場所を確認するような施設である。 なぜかと言えば―― 旅の原因でもある、まだ十代半ばにも満たない少年シグリィ当人が、旅をするには少々体が弱いからだった。 「仕方ないのよね」 セレンが、眠り込んだ少年の顔をベッドの傍らの椅子に座ったままのぞきこみながらつぶやいた。 「その体に力を抱え込みすぎているっていうのも……楽じゃないわよね」 「そうですね」 セレンの傍らに立ちながら、カミルは同意した。 二人は、二人ともシグリィより十歳以上歳上ながら――シグリィを主と呼び、ともに旅に付き添っている。 今いる街には、今朝ついたばかりだった。 陽はまだ高い。シグリィは早速病院のベッドに寝かされている。 前の村からこの街に着くまでが二週間と長く、疲れが出ていたところに――魔物に襲われ、怪我をした。そのために街に着くなり病院に直行、となったのだ。 癒しの精霊。そう呼ばれる存在もいる。 カミルもセレンも、実はその精霊との交信が可能な人間だ。 しかし、これはシグリィの願いだった。 ――できる限り、人間の治癒力で怪我や病気は治すこと―― 「さっすが、私たちのご主人様、よね」 すうすう眠るシグリィの、さらさらの黒髪を撫でながらセレンは自慢げに言った。 「ねえ?」 「もちろんです」 カミルが微笑んだ、そのとき―― 「ねえ……」 声がした。 |
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カミルとセレンは振り向いた。 隣のベッドで、上半身を起こした小さな女の子が心配そうな顔をしていた。 「その……人、怪我、してる……の?」 シグリィを指して、尋ねてくる。 セレンは微笑んで、 「ええ。でも大丈夫、しばらく入院すれば治るから」 と答えた。 少女はほっと微笑んだ。 年のころ十歳ほどだろうか。カミルとセレンの主たる少年より、さらに歳若い。 「ねえ……あなた、お名前は?」 セレンは椅子を少女のほうへと近づけて問う。 「リールー」 少女は恥ずかしそうにそう名乗った。 「リールー。かわいい名前……!」 子供が大好きなセレンは、抱きつきたそうな表情でぎゅうと両手を握り合わせる。 えへへ、と少女は再び頬を赤らめた。 「あの、お姉さんたち、は?」 「私はセレン。この立ってる朴念仁はカミル」 「……朴念仁ときましたか。セレン、シグリィ様が退院なさったら覚悟しておきなさい」 「ボクネンジン……?」 「あ、あははは、あのね、この立ってるとーってもかっこいいおにーさんがカミル」 「今さら遅い」 「セレンさんと、カミルさん」 覚えようとするかのように、少女はその名前を自分の口の中で繰り返した。そして、 「その……人、は?」 示すのは、ベッドで眠っている少年。 「ああ、入院するのはシグリィ様よ」 「しぐりぃさま?」 「名前はシグリィでいいと思いますよ」 「さま? どうしてさまなの……?」 「うーん。説明すると難しいからうまく説明できないけど、リールーは様をつけなくていいからね」 セレンはそう言って、リールーの頭に手を伸ばし、その少し伸びた黒髪を優しく撫でた。 「シグリィ様、今日の夜ぐらいには目が覚めるみたい。もしよかったら、仲良くしてね?」 「うん」 リールーは嬉しそうに、うなずいた。 |
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********** 目を覚ますと、傍らですうすうと寝息を立てている音がした。 「………」 シグリィはその気配で、例によって自分の世話をしているのはカミルかと察してふうと息をつく。 もっとも、その身に「魔物寄せ」の《印》を持っているセレンが病院で自分の世話をしていても、それはそれで困るのだが。 (また……ドジを踏んだか……) 長旅で疲れていたとは言え、魔物に腹をやられるとは。下手をすれば致命的だ。 ――動けない。 (さすがに腹をやられてはな……) 視界が暗い。 どうやら夜らしい―― かさり。 隣で、紙ずれのような音がした。 かさり かさり 「………?」 シグリィは横を向く。 隣のベッドで、ひとりの少女がたくさんの紙切れをベッドに散らばせ、紙を折っていた。 「………?」 かさり かさり 丁寧に、ひとつずつ。 (何かを……折ってる?) シグリィは動けないまま気配だけをさぐり、病室に何人いるかを確認する。 自分。自分のすぐ傍で眠っているカミル。隣の少女。 それだけか―― 「きみ……」 シグリィは声をかけた。 はっと、隣の少女が振り向いた。 同時にばっと、眠っていたカミルが抱えていた剣の柄に手をやりながら目を覚ました。 |