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〜 きんいろのねこ 〜   

「――それで、ユア。聞きそびれていたんだけど」
 昼下がり。クチナシを抱いたユアを宿へと再び案内しながら、シグリィはおもむろに尋ねていた。
「あの“きんいろのねこ”が効力があるっていう根拠は、結局何なんだったんだ?」
「あ、そうだった……」
 ユアは思い出したように言ってから、「それって今から宿に行くのと関係あるの?」
「いや、ただ単にセレンがクチナシに会いたがっただけだけど」  
 まあ、でも君に来てもらえると助かるのも事実かな――という少年の言葉に、ユアは首をかしげる。
 クチナシ行方不明騒動から一夜あけ。
 昼食時をすぎてしばらくたったころ、彼は突然ユアを訪ねた。“宿に来てくれ”と。
「――まあちょっと、大変なことになってるものだから」
 重々しく言いながら、その実まったく大変そうには見えないシグリィは、やっぱり楽しんでいるわけだが。
 理解できないといった表情のまま――それはそうだろう――ユアは話を始めた。
「ええっと、昔この村がかんばつで潰れそうになったときに、この村の長さまが自分の飼い猫に――あ、この猫の毛並みが金色だったんだけど、この猫に悩みを話していて、そしたら長さまの夢の中に猫が出てきて『心配するな』って言って……翌朝、猫はいなくなっていたけど、大雨が降ったっていう……」
「その伝説がすべて?」
「それを理由にして――」
 話の途中で宿が見えた。
 と、ユアは言葉を切った。
 彼女の目がまんまるくなった。
 にゃー、ふーっ、ごろごろ
 宿の前で、何匹もの猫がさまざまな鳴き声をあげて大合唱している。
 そしてその中心に、あたふたしているセレンの姿があった。
「……どうしたの、これ?」
 ユアは隣に立つシグリィに訊いた。
「ああ。見たままなんだが」
 シグリィは腕組みをして、重々しく頷いてみせる。
「セレン――――!!」
 すっかり馴染みとなった、怒鳴り声が飛んだ。
 ああ帰ってきたなと、シグリィは買ってきたものを取り落として叫んでいる青年を見やった。
「あ・な・た・は……っ! いったい何をやっているんですか!!!」
「だって――!」
 多くの猫に体をすり寄せられながら、セレンが嬉しそうなんだか困っているんだか分からない声を上げる。
「このお守りすごいのよー! 猫に見せると全部なついてついてくるんだものっ!」
 彼女が手にしているのは、黄色い猫の粘土細工。
「あんまりかわいいから止まらなかったのよう……!」
 ――そんなことを訴える女を見ながら、シグリィは自分も手に取ったことのあるあのお守りを思い出してみた。
 軽かったのだ、あれは。
 そして自分がジオリを脅すために力を借りたあの猫は、やたらとシグリィの手に体をこすりつけてきた。――それまで彼が、あのお守りを持っていたその手に。
 さらには“きんいろのねこ”を売る店は、わざわざ結界を張っていた。猫を、寄せ付けないために――
「――察するにあのお守りの中には、何か入っているんだな」
 シグリィはひとり頷いた。
 分かりきっているその答を、ユアがぽつりと付け足した。
「……またたび……」
 だからつまり、あの粘土細工は“お守り”というよりは、“猫寄せ”なのだ――
 猫にとって麻薬のような効果を持つかの香りを求めて、セレンの元に集った猫たちは――ともに酔ったように地面を転げ回り、その体をあらゆるところにこすりつけ、にゃーにゃーと甘ったるい鳴き声をあげる。
「こーなったら、離れられないわよ! ねえカミル――!?」
 危機感のない女が、弾む声でパートナーにそんなことを言って――
 わなわなと、青年が震えるのが見えた。そして、  
 猫たちの頭上を、その日一番の怒鳴り声が駆け抜けた。

「いい加減に、しなさい―――――っ!!!」

 騒ぎに気がついてどやどやと村人たちが集まってくる。もちろん猫も。
 さらに騒がしくなっていくその場を眺めながら――
 シグリィは、肩をすくめて呟いた。
「……ま、平和ってことだな……」
 にゃあ  
 まるで同意するかのように。  
 くちなし色の小猫が、飼い主の腕の中で、のんきな鳴き声を上げた。
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